- -pv
スレッドの閲覧状況:
現在、- がスレを見ています。
これまでに合計 - 表示されました。
※PC・スマホの表示回数をカウントしてます。
※24時間表示がないスレのPVはリセットされます。

エンド・オブ・オオアライのようです

1vVnRDWXUNzh3:2018/09/09(日)23:00:57 ID:K5j()
前作
( ^ω^)戦車道史秘話ヒストリア!のようです
http://elephant.2chblog.jp/archives/52215915.html

関連作
【艦これ】ウキウキ!!首相の鎮守府訪問!!のようです(コラボ先)
http://elephant.2chblog.jp/archives/52215283.html

(´Д`)離れ小島の提督さんのようです
http://elephant.2chblog.jp/archives/52214408.html

|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです
http://elephant.2chblog.jp/archives/52194642.html
380vVnRDWXUNzh3 :2018/09/29(土)23:43:14 ID:rcT
ギリギリ人一人が普通に歩ける程度の幅しかない、両脇にコンクリート製の塀が立つ家屋と家屋の間の細い路地。そこに、口々に奇声を発しながら何十という寄生体が私への殺意を露わに押し寄せる。

内側から見ればそれは、いっそ気恥ずかしさすら感じる月並みな比喩表現だけど、膿んだ傷口から溢れ出るウジ虫の群れを見ているような胸くそ悪さだった。

「退け!!」

『ガッ!!?』

『ゲグッ…』

押し合い圧し合い、互いの胴をうねうねとおぞましく絡め合いながら入り口を塞ぐ群体。その中から突出した二体をギリギリまで引きつけ、至近距離から立て続けに鉛弾をぶち込む。
真正面から銃火を食らった一体はバットでぶん殴られたかのような勢いで群れへ舞い戻り、首と胴の付け根辺りをぶち抜かれたもう一体は弱々しく息を漏らしてそのままくたりと足下で弛緩し動きを止める。

『『『キュオアッ!!!』』』

「このっ!!」

息継ぐ間もなく、今度は三体。ご丁寧に咽頭、脇腹、胸部と急所3箇所を別々に狙った突撃。最初に飛んできた咽頭への噛みつきから僅かに身体を捻って逃れた後、そのままその個体の頭を鷲掴みにして地面に叩き付けた。

『ギッ────ェア゛ッ』

『『ボァッ!?』』

持ち上がった顎に渾身の蹴りを食らわせる。引きちぎられた頭部が断末魔を残して宙を舞い、それに突撃軌道を遮られた二体の動きが鈍ったところに12ゲージ弾を発射。
怯んだ二体が群体に戻っていくが、追撃は四体目の襲撃によって寸断される。
381vVnRDWXUNzh3 :2018/09/29(土)23:57:38 ID:rcT
絶妙なタイミングでの妨害にいらだつ胸の内を抑えつつ、四体目の頭部を銃床で殴打。横っ面からの一撃でグラグラと揺れているところに今度は真下から跳ね上げての打撃を食らわせ、崩れ落ちるや否や真上から銃撃。

艦娘として強化された腕力をフルに発揮しての殴打で歪んだ頭部にパルメザンチーズの如く無数の穴が空き、そこから幾筋もの細い煙を吹き出して四体目が沈黙する。

(うざったいわね……)

狭い路地での戦闘は向こうの軌道が単調になりがちで迎撃しやすい一方、此方の回避スペースも限定されるため一気に距離を詰めることが難しい。

彼我の距離は30M程。詰められなくもないが、路地の入り口で蠢く群体の数から見て流石に連射力に難があるSPAS-12だけで捌ききれるものではなさそうだ。

白兵戦で相手取ってもいいが、個人的な理由でそれもなるべく避けたいところ。

なら、プランBね。

「せぃっ!!」

態勢を整えて再び突貫してこようとした群体に向かって牽制の弾丸を放ちながら、左側の塀に向かって肩口からぶつかる。鉄筋コンクリートのようだったが、私たち艦娘からすればそんなものは何の役にも立たない。

凡そ数十トンにもなるであろう一撃を食らって塀が崩れ、私はその向こう側へと転がり込んだ。
382名無しさん@おーぷん :2018/10/01(月)18:35:20 ID:LhW
更新おつです
久しぶりに大洗女子学園艦内?
383vVnRDWXUNzh3 :2018/10/01(月)23:25:16 ID:coQ
『キィイ────モゴガッ!?』

すぐさま寄生体が一体私を追ってきたが、塀の穴から顔を出した瞬間にコンクリート片を蹴り上げて口の中にぶち込む。

後ろで悶え苦しむ気配を無視して膝立ちになり周囲を軽くクリアリング。どこかの家の庭先に出たらしいことを確認した後、正面にあった裏戸と思わしきドアを蹴破って更に家屋の中へと踏み込んだ。

「おおらぁああ゛あ゛ア゛ア゛aァグッ……』

「あら、空き家じゃなかったのね。ごめんなさい」

部屋の奥から雄叫びと共に木の杖のような物を振り上げて出てきた、「元」家主と思わしき初老の男に謝罪の言葉を投げて禿げ散らかした頭を反対側へ捻る。
何か乾いた破砕音が首の辺りから聞こえて、ついと背中を押せば男はガクガクと奇妙に痙攣しながら庭へと転がり出ていく。

「………」

そのまま家の中を駆け抜けようとした足を止めたのに、特に明確な理由はない。
強いて言うなら、虫の知らせか女の勘か、とにかく経験則から導き出された直感の一種による物だ。

『ギィアアッ!!!』

「────やっぱり!」

結論から言えば、これは正解。
384vVnRDWXUNzh3 :2018/10/01(月)23:32:06 ID:coQ
裏庭でうつぶせに倒れた“暴徒”の背中が七輪の上で焼かれる餅のようにふくれあがり、勢いよく破裂する。皮膚を突き破って中から飛び出してきたのは、案の定黒い頭と白い胴を持ったウミヘビの出来損ない。 

「邪魔よ!」

『ギュイッ!!?』

猛然と身を伸ばすその個体に向かって12ゲージ弾を放ちつつ、後方に跳躍。本来なら片手でも容易く抑えられる発射時の衝撃にあえて身を任せ、廊下を隔てる襖を突き破って一気に家の奥へ文字通りの意味で飛び込む。

「────……!」

リビング……というよりは居間と呼んだ方がしっくりくるその畳敷きの部屋の中を、素早く立ち上がりつつクリアリング。右手側すぐ、電話台の傍に倒れる人影に一瞬不覚にも肩を跳ねさせたが、此方は完全な屍体らしく動き出す気配はない。

(………さっきの男がやったのかしらね)

顔は、“棒状の何か”で酷く殴打されていてまともな判別が出来ない。ただ、少しパーマがかった白髪と皺だらけの筋張った手、紫を基調にした厚ぼったいちゃんちゃんこという服装などから、恐らく年配の女だろうというのは推察できる。

ちらりと電話台の上に目をやる。受話器が外れて単調な電子音を鳴らすのみの固定電話の横に置かれた、ガラスが割れた写真立て。

はめ込まれた写真に映っている人影は二つ。片方は、私の記憶が正しければさっき首をへし折った“暴徒”の男。

その隣には、少しパーマがかった白髪の女が、優しげな笑みを浮かべて立っていた。
385vVnRDWXUNzh3 :2018/10/02(火)00:04:45 ID:oNB
(………成る程ね)

概ね、この家の中で何が起きたかは把握できた。どこにでもいる仲のいい老夫婦だった二人は、その片割れのおつむが深海棲艦に乗っ取られたことによって悲劇的な幕引きを迎えたらしい。
突然得体の知れない化け物に意思を、思考を支配され、長年愛してきた伴侶をその顔を思い出すことすら出来ず憎しみを込めた殴打で殺す……全く、悲劇的ね。

「………本当に、悲劇的だわ。ありふれた、陳腐な内容だけど」

写真から目を離し、SPAS-12に弾薬を装填しておく。腰に巻いたホルスターからSPAS-12と同じ場所で拝借したSIGを引き抜き、此方の弾薬も確認する。

自覚はしている。どちらも、些か荒っぽい所作になっていることを。端から見れば、明らかに冷静さを欠いた状態にしか見えないことを。

だがそれでも、胸の奥で渦巻く、もやもやとしたどす黒い何かが体中を駆け巡るのを抑えられずにいる。

以前、あの“ちんけな発想しか出来ないのに合衆国大統領とかいう分不相応な地位に就いてしまった哀れな小物婆”に向かって切った啖呵に嘘はない。

艦娘として生を受けてから間もなくの頃は、最初の司令官を含めて人間の黒い部分をそれこそ嘔吐するほど見せつけられ“人間”という存在に対する信頼や情は消え失せた。
“海軍”として今まで戦ってきたのはあくまで「私自身が今の司令官の下で戦うのは愉しいから」であり、そこに使命感や正義感なんて曖昧で青臭くこそばゆいものは一切介在していない。

疾うの昔に、そんな物を糧にして命がけで戦える“小娘”の時代は卒業している。

だがそれでも……それでも、だ。

私が見てきた、

クソのような世界とは無縁の、

クソのような人間とは無関係の、

ただ善良に生きていただけであろう人が理不尽に残酷に弄ばれる様を見て。

それでも何も感じないほど、完全に心が死んだわけじゃない。
386vVnRDWXUNzh3 :2018/10/02(火)00:42:42 ID:oNB
玄関へ向かうなんてまどろっこしい真似はしない。跳躍し、部屋の窓を蹴り破り、外へと飛び出す。

『カァッ!!!!』

着地すると同時に、頭上から降ってくる奇声。2階辺りに“苗床”でもあるのか、寄生体が鎌首をもたげて迫ってきた。

『キィイイイ「五月蠅い」ガボァッ!?』

頭を鷲掴みにして、口をこじ開け、ホルスターから抜き取ったSIG SAUER P230JPをねじ込む。引き金を何度も押し、弾丸を直接体内へと送る。

『ゴッ、ゲッ、ギッ、ギッ!!?』

.32ACP弾が放たれる度に、腕の中で黒い頭部が震え、耳元で胴がのたうつ。艦娘直々の「あーん」なのだから、しっかり味わってほしいものだ。

『ゲッ………』

「ふんっ」

弾倉が丁度空になったところで、ぐたりと上からぶら下がるだけになった頭を背後の壁に投げつける。司令官がリンゴと梨を纏めて握りつぶしたときのような音が後ろで聞こえ、私は頬にかかった青い液を顔をしかめながら指で拭った。

『『キィッ、キィッ!!!』』

『『ギィイイイイイッ!!!!』』

正門から通りへと踏み出せば、あの甲高い鳴き声の大合唱が私を出迎える。さっき路地裏で襲撃してきた群体に、他の区画から寄ってきたと思わしき新手も加わり優に100体とちょっとと言ったところだろうか。
外見の気色悪さも相まって、雑魚中の雑魚とはいえここまで寄り集まられるとなかなか気が滅入る。

「「艦娘、艦娘ダ……!!』』

『『殺セ、殺セッ……!!」」

おまけに、雑木林の如く林立する奴らの胴の合間には、何十という数の“人影”も見える。手に武器を持った“暴徒”の群れが、私への殺意を明確に滾らせて此方を睨み付ける。

「………っは、最ッ高にご機嫌な眺めね」

思わず、笑ってしまった。

アメリカのクソ婆にこの光景を是非見せてさしあげたいものだ。何せ“深海棲艦と人間が共闘する姿”よ?彼女がモニター越しにほざいてた正義が云々なんて文句よりも、余程美しい“融和”の姿じゃないかしら。

きっとあの婆、感動のあまり泡を吹いて卒倒するわね。絶対録画しなきゃ。
387vVnRDWXUNzh3 :2018/10/02(火)01:09:41 ID:oNB
『キァアアッ────ア゛ッ』

『……………ゴポッ」

私が笑ったのを隙、或いは錯乱の兆候とでも見たか、或いは私という───“艦娘”という極上の獲物を前にして待ちきれなかったのか。寄生体が一匹と“暴徒”が一人、両側から飛びかかってくる。
SPAS-12で首の付け根辺りをぶち抜かれた寄生体は、へなへなと力のない動きで私を飛び越して背後の家の玄関先に落下。返す動きで肘打ちを食らった“暴徒”は自分の腹のど真ん中にぽっかりと空いた穴を一瞬呆然と見下ろした後、ぐるりと白眼を剥き仰向けに倒れた。

「ヒッ……』

『ギィッ、ギィッ、ギャアッ!!!』

暴徒達の間で悲鳴が上がり、寄生体共が口々に警戒のものと思わしきうなり声を上げる中、私は周囲を見回して改めて状況を確認する。

大洗女子学園の校舎までは、距離にしてあと目算凡そ3キロほどといったところか。私を包囲する寄生体の数は昼頃にあの夫婦を助けた際に殲滅したのとほぼ同数程度だが、あの時は私から奇襲に近い形で奴らに切り込めた部分があるため条件が今とはやや異なる。
加えて5、60名ほどの“暴徒”もいるとなれば、多面的な攻撃を捌く必要もあるだろう。

まぁ、だから何だという話だが。

(SPAS-12の弾は……流石にここはケチらずに行きましょうか)

こいつ等程度の存在が、100や200集まったぐらいで手詰まりになるような柔な鍛え方をしてきたつもりはない。油断はしないけれど、この何億倍も危機的な状況でも生き延びてきた身として必要以上の警戒もしない。

寧ろ私としては、相応の「数」を揃えてきてくれた点については若干深海棲艦共に「感謝」すらしているぐらいだ。

さっきから、胸の内で跳ね回る黒く醜い衝動。あの写真立てを見た瞬間に吹き荒れた、やり場のない怒り。

それを発散し、解消し、叩きつける先を探している身としては。












「私の─────この叢雲の前を遮る愚か者共。沈みなさい」

容赦なく殲滅できる100体以上の“サンドバック”が目の前にある現状は、不幸中の幸いと言える。
388名無しさん@おーぷん :2018/10/03(水)10:28:17 ID:Q6V
投下きた
おつです
389名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)00:46:43 ID:OIR
続いててよかった
投下おつです
390vVnRDWXUNzh3 :2018/10/06(土)23:17:00 ID:MMt
『『『───────……』』』

上空を、深海棲艦の艦載機が覆い尽くす。学園艦に突入してきた強行偵察と思わしき友軍機を追い回していた時から、更に規模を増した大編隊が飛び去っていく。

その最後尾の機影が通過すると同時に、私を取り囲む“群れ”が揺らいだ。

『『『ア゛ァ゛ッ!!!』』』

「「「オォアアアアアアッ!!!!』』』

一斉に、同時に。何十という寄生体が、“暴徒”が、雄叫びを上げて押し寄せる。

数に任せての力押し。単純だけど、この場合は理に叶っている。
小細工を仕掛けにくい開けた場所で少数を相手取るときは、何か策を弄される前に数的優勢を以て一挙に磨り潰すのが一番合理的なやり方だ。

尤も、この程度の“数の力”で私をどうにかできると奴らが考えたのなら──────見当違いも甚だしい。

『ギィイイイイイッ………ギィッア!!?』

左手側、功を焦るという概念が奴らにもあるのかは知らないけれど、とりわけ突出してきた寄生体一匹。至近距離から首の付け根に弾丸を叩き込み、仰け反ったそいつの頭部を鷲掴みにする。

『ォア゛ッ』

『ギィッ!!?』

胴を踏みつけ、力任せにねじり上げる。12ゲージ弾の着弾箇所からブツリと千切れた頭部を、そのまま次に迫ってきた別の個体に投げつける。

多少手投げ気味だったけど、そこは艦娘脅威の身体能力。艤装無しでも睦月型が軒並み150km超の剛速球を投げ、装備込みならヒトマルの複合装甲にただの硬球をめり込ませる人間離れした存在。

況してや、今私が投げた塊は“深海棲艦の装甲殻を纏った物体”だ。
391vVnRDWXUNzh3 :2018/10/06(土)23:27:40 ID:MMt
ゴシャッ。

命中した瞬間の擬音を文字に起こすなら、きっとこんな感じになるだろうか。

『────ッカ』

正面から投擲を食らった個体の頭部が粉砕される。砕け散ったそれぞれの装甲殻が辺りに飛び散り、アスファルトの上で乾いた音を立てて跳ね回る。

『ひぁっ……」

その光景に対する驚愕からか恐怖からか、ナイフを構えて接近してきていた若い男の“暴徒”がその足を鈍らせる。すかさず手刀を胸に突き出し、躊躇なく彼の胸元に“突き入れ”た。

『ごぶっふぉっ」

『う゛あっ……!?」

指先に伝わる、肉を突き破り、骨を砕き、その下に護られていた心臓を貫く生暖かい感触。
口から血の塊を吐いて崩れ落ちた男から手を引き抜き屍体を蹴り飛ばすと、バットを振り上げ向かってきた後続の金髪男がそれに巻き込まれて薙ぎ倒された。

『ァアッ───ギュアッ!?』

『『『ギィイッ!!!』』』

体勢を戻す間すらなく、寄生体四匹による多方向からの襲撃。内、真正面から飛びかかってきた一匹にSPAS-12の射撃を加えながら再度衝撃に乗って後ろに飛ぶ。
残る三匹の突貫が、直前まで私が居た位置に突き刺さりアスファルトを砕く。

「とりゃあああああああっ……きゃっ!?』

着地した私に背後から迫ってきた鬨の声。振り下ろされたコンクリートブロックを裏拳ではたき落として其方に向き直ると、栗色の髪に少しパーマがかかった14、5歳程度の少女が身を竦めていた。
392vVnRDWXUNzh3 :2018/10/06(土)23:28:24 ID:MMt
そして……彼女が身につけているのは、大洗女子学園の制服。

「………っ」

写真立ての時とはまた別種の、何かドロドロとした感情。それが胸一杯に満ちる感覚に顔をしかめつつ、私の掌はその少女の胸を押す。
心臓を一瞬で潰された少女の身体が一度跳ね、眼の奥に宿っていた赤い光が息を吹きかけられた蝋燭の火みたいに掻き消える。

「っあ………』

助けを求めるように虚空を掴む手。コポリと音を立てて口の端から零れたその子の血液。微かに漏れた悲しげな吐息。

本当なら今すぐにでも掻き消したいそれらの光景を脳裏にあえて焼き付けつつ、私は
彼女が持っていたコンクリ塊を掴み頭上から迫ってきた“気配”に向かって全力で振るう。

『ゴグァッ!!?』

破砕音と共に、ぱらぱらと頭の上から降りかかる小さな黒い欠片。視線を向ければ、下顎が粉々になった寄生体が弱々しい動きで私から逃れようと身を捩っている。

『ギゥッ』

「ばっ…ぉ……っ』

有無を言わさず、もう一度下から殴打。砕け拉げて沈黙したそれをコンクリ塊ごと打ち捨て背中越しに肘打ちを放てば、勇敢にも(そして無謀にも)私に組み付こうとしたスーツ姿の優男がくの字にへし折れて吹き飛んでいく。
393名無しさん@おーぷん :2018/10/09(火)10:31:48 ID:5r7
更新乙です
絶望的だった大洗学園艦も海軍の艦娘がいると希望が出てくるな(フラグ)
ブーン先生は無事だろうか
394vVnRDWXUNzh3 :2018/10/16(火)22:57:30 ID:4RN
表の世界の艦娘と違い、私にとって人殺しは深海棲艦の撃滅と同じ──とまではいかないが、割と日常的な「任務」の一環に過ぎない。

中東、アフリカ、南米、東南アジア、東欧……“海軍”として世界中を飛び回り、それこそ100じゃ利かない人数の血を頭から浴びてきた。
馬鹿げた宗教団体になりかけの鎮守府から瑞鳳を救出する際には、日本人さえ槍の錆びに変えた。

何度も繰り返してきた、“手慣れた”行為。今更罪悪感や抵抗を抱く権利は私にはないし、そもそも抱いたことは一度もない。それが私の役割だと理解し、覚悟し、その上で望んだ道なのだから当然だ。

でもこれは、此処は、今までと違う。

「………ッ!!!」

『グギィッ!?』

SPAS-12の銃床を叩きつけて寄生体の顎を撥ね上げながら、噛みしめられた奥歯が軋む。逆手に持った銃身を握りつぶしそうになった掌から、必死に余分な力を抜く。

『ギャッ』

身を焦がすような自身に対する怒りが、腹の中で悶え暴れる。ソレを吐き出す代わりに、私は仰け反った頭部に二度目の殴打を叩き込む。

確かに、数多の人間を、本来なら艦娘として守護しなければならない存在を殺してきた。だけど今までのそれは、主義主張の方向性に違いこそあれ明確に“私たちの敵”だった。

私たちの排除を、失脚を、支配を目論み、自らの意思で仇を成そうとする存在。
それが正義か悪かに興味はない。そうと自覚した上で武器を向けるのなら、一切の容赦も躊躇もなく討ち滅ぼせる。

だけど、この“暴徒”はそうじゃない。彼らが、彼女らが私に刃を向けるとき、そこに「自らの意思」は介在しない。
寄生体経由か他の何らかか、いずれにせよ、深海棲艦によって造り上げられた偽りの憎悪、敵意に突き動かされてのこと。

そして、そうなる前までは────ほんの数時間前までは戦争も艦娘も深海棲艦も関係ないところで、ただ普通の日々を謳歌していた「普通の人間」達だ。
395vVnRDWXUNzh3 :2018/10/16(火)22:59:43 ID:4RN
この騒動が始まった直後辺りで、出刃包丁を持って掴みかかられた中年の女も。

民家から飛び出してきた、あの初老の男も。

この手で心臓を押し潰した、女子生徒も。

「くぉッ………はっ……』

たった今私が、手刀で喉笛を掻き切ったコック帽にエプロン姿の優男も。

誰もが、艦娘も深海棲艦も、正義も悪も、戦争もない普通の日常を送っていた。それを、操られて襲いかかってきた彼らを、私は殺した。

知らなかったワケがない。気付かなかったは通らない。私は寄生体や暴徒の存在を前から知っていて、ほんの数時間前までは平和な日常を営んでいた大洗女子学園の様子をつぶさに眼にしていたのだから。

見えなかったふりをして、気付かぬようにと誤魔化して、既に数多の“暴徒”を殺した。そのくせ、いざ逃れようがないほど決定的に事実を鼻先に突きつけられればこの様か。

(それこそ───“使命感や義務に眼を輝かせる生娘”でもあるまいに!!)

『ピギャッ!!!?』

『ひぃっ!?」

足下から迫ってきた黒い頭部を八つ当たり気味に蹴飛ばしながら、SIGの弾倉を差し替えて構える。銃口を突きつけた先には、飛び散った寄生体の甲殻片に怯んで身を竦める恰幅のいい人影。

「助k』

簾頭にちょび髭の、絵に描いたような中年の男。ハンサムとは到底言い難いが、丸みを帯びた優しげな風貌。
乾いた銃声と共に、その眉間に小さな穴が穿たれた。

膝から崩れ落ちる身体。宙に赤い線を描く血飛沫。男の眼の奥の光が、私の手によって吹き消される瞬間。
さっき女子生徒を殺したときのように、それら一瞬一瞬の光景を眼に、脳裏に焼き付ける。
396vVnRDWXUNzh3 :2018/10/16(火)23:08:45 ID:4RN
権利を与えられるに際しては、常に義務が生じる。例え艦娘であってもそこは変わらない。

そしてこれが、私の義務だ。地獄の底で得た自由、発行された「殺人許可証」に求められる対価の支払いだ。

だから、眼を背けるな。対価の存在を知った上で、私は「地獄のような自由」を選んだのだから。

(こういう時だけは、あの無神経さが羨ましいわね!!)

寄生体二匹の頭を掴まえて同時に地面に叩きつけながら、脳裏に浮かぶのはドウェイン=ジョンソンばりの筋肉で何もかも解決しようとする我らが上官の姿。

あの男も、別に全人類をすべからく憎悪しているわけじゃない。同じ様な状況に陥れば、多少なりとも思うところは有るはずだ。
だけど司令官には、そんな感傷を割り切れる「強さ」がある。

自分が身を置く“地獄”の性質を理解し、真っ向から受け止めつつも、そのど真ん中で仁王立ちしながら武器を振るい笑える胆力。
それは明確な “強さ”であり、この時代、この世界における武力の象徴たる艦娘の私が憧れるもの。

………尤も、強さは欲しいとはいえ“ああなりたい”とまでは絶対に思えないけれど。

『『『ギャピッ!!?』』』

「ぐぬぉっ──』

『Shit……!!」

寄生体三匹と暴徒二人を回し蹴りで纏めて刈り取りながら、脳裏に蘇るのはムルマンスクから司令官達が帰ってきた直後のやり取り。

別にアイツの映画趣味にどうのこうのと口を挟むつもりは毛頭ない。
けれど、戦闘の真っ最中に「ゾンビ映画みたいな光景で面白かったから」という理由で写真を撮って回るというのは正直ちょっと“割り切りすぎ”なように思える。

というか、この一件以降司令官の言動は強さの表れじゃなくて単に何も考えてないだけなんじゃないかという疑いが再び頭をもたげてきているぐらいだ。

「うん……やっぱり、幾ら強くてもああはなりたくないわね」

思わず零れた独り言の後ろに、胸の内で「そもそもなっちゃダメだわ」と付け加える。
“ノリと勢い”で突っ走るアンツィオ式をウチの鎮守府で採用すれば、それこそ本気で世界を滅ぼしかねない。

今までに人類という種が歩んできた歴史を考えれば、或いは種の絶滅は当然の報いなのかも知れない。

ただ、“筋肉もりもりマッチョマンの変態が率いる軍集団の暴走”が原因になるよりは、もう少しマシな結末を選ぶ権利ぐらいはあってもいいんじゃないかしら。
397名無しさん@おーぷん :2018/10/17(水)16:39:14 ID:xbc
投下おつです!
398vVnRDWXUNzh3 :2018/10/17(水)23:05:18 ID:nhj
軽い頭痛を覚えたので、アイツについてこれ以上考えるのはやめにする。
……おかげで多少なりとも胸中のモヤモヤは緩和されたのも事実だけれど。

しかし本当に、なんと数の多いことか。

「ったく、どこぞのGでももう少し慎ましい物量だってのに!!」

『ゴギァッ!?』

『ガッフ……』

前後から挟撃の形で二体同時に襲いかかってきた寄生体。後方の個体に肘打ちでカウンターを合わせつつ、正面で開かれていた大口に向かってSPAS-12を発射。
12ゲージ弾ほぼ全発を体内に取り込んだ「食いしん坊」は、青色の血反吐を吐いてぐたりと地に伏せる。

『ギュッ、ゲッ?!』

すぐさま後ろを向き、掌底を顎に。
そのまま銃口を真上に向けて引き金を引くと、立て続けの打撃で脆くなっていたソイツの頭がパルメザンチーズの如く穴だらけになり沈黙した。

『いっ、ぎぃあああああああっ!!!?」

側頭部に何かが迫る気配を感じて、ブレイクダンスの要領でしゃがみ込みながら蹴り。肉が潰れる湿った音と骨が砕ける乾いた音とが交錯し、木刀のような物を構えていた“暴徒”の足が千切れ飛んだ。
上がる悲鳴に顔をしかめつつせめて苦痛が長引かないようにと裏拳を放ち、頭部を叩き潰す。

「『いぎぁっ!?!」』

『ギガッ』

手から滑り落ちた木刀を鷲掴み、横に一閃。後続してきた暴徒二人の上半身が吹き飛ぶ。
踏み込んで更に一撃。プレス機にかけられたみたいに歪み潰れた寄生体の黒い頭部が地面で跳ねる。

これで倒したのは何体目、何人目だろうか。まあそもそも最初から数えちゃいないので意味がない疑問だけど。

『『『ガァアアアアアアッ!!!!』』』

「………流石に、ちょっと疲れてくるわね」

序でに言うと、私を取り囲む“残り”についても、あまり考えたくない問題だ。
399vVnRDWXUNzh3 :2018/10/17(水)23:38:46 ID:nhj
数が減らない、どころの話じゃない。暴徒も寄生体も、交戦開始時より明らかに数が増えている。
戦闘前は両方併せて100半ばだった集団は、今や目算する限り300すら優に超えかねない。

(余所からの増援到着ってとこかしら。まぁ、あれだけド派手に立ち回ればそりゃ寄ってくるわよね)

特に寄生体を眼で牽制しつつ、12ゲージ弾とSIGの予備弾倉の残りを確認。

弾が12発に弾倉が7個。残弾はごく僅かだが、正直そんなに焦りはない。

幸い、寄生体も暴徒も個体ごとの戦闘力は極めて低い。最悪銃弾を完全に温存して白兵戦に徹したとしても、多少手間がかかる程度でこれぐらいの数なら十分迎撃できる。 

(とはいえ、状況的に長居したくはないのよね。

ここは寄生体の数が少ない右手側に突貫、とっとと包囲を突破して─────)

尤も。












『──────ア゛ァ゛ァ゛ッ!!!』

これは、あくまで敵が“暴徒と寄生体のみだった”場合に成り立つ計算だけど。
400名無しさん@おーぷん :2018/10/19(金)10:05:00 ID:LGP
連日更新キタ
おつです
401vVnRDWXUNzh3 :2018/10/19(金)23:34:20 ID:M1J
叫び声が聞こえた瞬間、私の身体は鳴り響く第六感の警鐘に従って動いている。それが、幸いだった。

殆ど横っ飛びに近い形で右に駆け出した直後、真向かいのブロック塀が轟音と共に崩落する。渦巻く土煙を切り裂いて飛来した無数の“何か”が、私の身体がコンマ一秒前まで存在していた空間を貫く。

「冗っ、談じゃっ、ないっての!!」

銃撃、それも学園艦保安隊が装備しているサブマシンガンや陸自の自動小銃のようなちゃちなものが奏でる奴じゃない。
空を飛び回る艦載機の羽根を引き千切るために開発された、艦載対空機銃が弾丸を吐き出すときの低く重厚な発射音。

コンクリートどころか数ミリ程度なら鉄板でも容易くぶち抜く威力の銃弾が、塀や道路に風穴を空けながら転げるようにして逃げる私の後を追う。
50cmと離れていない位置に弾が突き刺さる甲高い音が途切れることなく響けば、流石の私もイヤな汗を浮かべざるを得ない。

(いつもなら……こんな弾幕どうって事ないのに!!)

艦娘の身体を護る不可視のシールド───所謂“船体殻”の強度は装備艤装にある程度依存する。戦時で基本的な装備をしているときなら、いかに駆逐艦とはいえたかが機銃如きではさしたるダメージは与えられない。

だけど、今私の手元にある艤装は“アレ”が一対だけ。一応船体殻が起動しているのは感じられるが、最低限どころか「最低級」の装備で張られたものがどれだけ敵の攻撃を防げるかは未知数だ。

(せめて“指輪”があれば多少は変わったのかも知れないけど……!)
402vVnRDWXUNzh3 :2018/10/19(金)23:38:01 ID:M1J
ケッコンカッコカリ指輪。

一定数以上の出撃を経験した艦娘が、指揮官との連名で書類を提出し防衛省(“海軍”の場合大本営)から認可が下りると配布される練度上限開放用の特殊艤装。

書類が受理されると枕が二つ付いたせんべい布団とセットで送られてくるというどこの馬鹿が考えたのか顔を見たくなるようなおっさんセンスの代物だけど、その効果は折り紙付きだ。
現に私たちのところの青葉や夕立、以前司令官がロマさんの依頼で「除霊」しに行ったトラック泊地の摩耶などは“海軍”艦娘の中でも更に飛び抜けた戦果を上げている。

何よりも大きな効果は、船体殻出力の大幅な向上。
技研からのレポートによると耐久力の高い艦娘ほど向上率が抑えめになっていく傾向があるらしいが、最も強力な船体殻を持つ大和型でも10%前後の強化が見込めるという。

自分で「必要ない」と断じての事ではあるし、後悔はない。また、以前愛すべき祖国から素敵な“首輪”をプレゼントされたことがある経験上そもそも乗り気じゃなかった面もある。

それでも、もしこの場にあれば少なくともこんな攻撃から逃げ回らずに済むのにという思いはどうしても頭をもたげてしまう。

『ゲェエーーー……ギョォアッ!?』

「やかましい!!!」

二条に増えて尚も追撃してくる火線を必死に躱しつつ、そのまま右手に健在の敵の群れへと突っ込んでいく。
早速寄生体が一匹飛びかかってきたが、此方から詰め寄って超至近距離で首元に12ゲージ弾を叩き込みその脇を駆け抜ける。

『キョッ』

背後で鳴り響く、肉繊維の断裂音。弾け飛んだ頭部がだらりとだらしなく口を開けた状態で私を追い越し、道脇の民家の壁に叩きつけられ破裂した。
403vVnRDWXUNzh3 :2018/10/19(金)23:45:31 ID:M1J
『ギャアッ!!?』

『ギィッ、ギギィッ!!?』

「いぎッ、ああぁあアアアッ!!?』

予想していたことだけど、深海棲艦にとって寄生体や暴徒──特に後者──の存在は捨て駒的な扱いらしい。
私が右手の群れに突っ込んだ後も、火線は容赦なくその後を追い辺りを蹂躙している。

寄生体についてはそれでもある程度回避しようとしている様子が視界の端に映る銃火の動きからうかがえるが、暴徒については本当にお構いなしだ。
押し寄せる弾幕は容赦なく私の周囲で彼らの手足をもぎ、胸を撃ち抜き、頭部を吹き飛ばしていく。

『おらぁっ、っ、がっ───!?」

「っ!」

そしてそんな扱いをされても尚、暴徒達は私への敵対行動をやめようとしない。
弾幕への怯えは群れを構成する人員の殆どに見られるものの、それでも数歩ごとに何人かが飛び出しては私の動きを妨害しようと様々な攻撃をかけてくる。

「本当に……胸くそ悪いったらありゃしないわっ!」

「ぎぃやっ!?』

棒を振りかぶってきた白衣姿にマスクの男をSIGで射殺し、倒れかけた身体の襟首をひっつかんで放り投げる。続けて突っ込もうとしたランニングウェアの中年女が、屍体とブロック塀に挟まれて血を吐いた。

『ふぉぐっ……」

「悪いけど、使うわよ!!」

3人目、眼鏡をかけて背が高い学生風の男の腕を引いて身体を引き寄せ、顎下から頭部をSIGで撃ち抜く。
脱力したソイツの屍を、互いの位置を社交ダンスのターンの如く入れ替えつつ背後に向かって(心の底からの)謝罪の一言を添え蹴り出す。

『ア゛ァ゛ッ!?』

銃火の主は、無論そんなもの盾にされたところで躊躇はない。屍体は一瞬で弾丸に吞まれて木っ端微塵になる。

だが、優に190cmは超えていそうな長身が、私を射線から、銃火の主の視線から覆い隠す。

それは、私が武器を構えるには十分な隙だった。

しゃがみ込んで火線の通過位置から身体をずらしつつ、振り向き、SIG SAUER P226の銃口を背後の“艦影”に合わせる。

弾倉に残っていた全ての弾丸を、そのまま艦影に叩き込む。
404名無しさん@おーぷん :2018/10/22(月)10:09:58 ID:Ck8
投下おつ
405名無しさん@おーぷん :2018/10/22(月)13:16:49 ID:5ac
おつおっつ
作品の世界観とか雰囲気が大好きです。
406vVnRDWXUNzh3 :2018/10/23(火)23:19:59 ID:oWk
ビードロ細工を指で弾いた時みたいな、キンッという甲高く澄み切った音。それが、私が引き金を押し込んだ数と同じ分だけ辺りに響き渡る。

放たれた.32ACP弾は、船体殻の表面で炸裂し小さな火花を幾つも散らす。当たり前の話だが、貫通して本体に届いた物は一発もない。

無論、私もこれがダメージになるなんて最初から思っていない。SIG SAUER P226の口径は9mm、射程距離や連射力も考慮すると【カブトガニ】さえ撃墜できるかどうかは微妙なラインだろう。
相手が曲がりなりにもヒト型なら尚更だ。

『ア゛?』

だけど、「艦娘」の私から反撃があったという事実は、敵にありもしない“意味”を邪推させる。

武器を構えられたことに対する警戒、予想に反して余りにも軽い威力の銃火に対する訝り、戸惑い、その何れもが、私が距離を詰める為の更なる隙を産む。

しかもお誂え向きな事に、私の周囲は奴の容赦ない機銃掃射によってすっかり“掃除”された直後だ。

『────ッ!?』

私の意図に気付き慌てて両手の機銃を構え直しているが、既にその場から駆け出している私からすれば酷く緩慢な動作に見えた。
向けられた銃口を前傾姿勢でかいくぐり、艤装を取り出すべくコートの懐に手をやりながら私は一直線に“敵艦”目掛けて突進する。

そして、彼我の距離が残り10歩ほどになった瞬間。

『───────ウ゛ォ゛オ゛ア゛ッ!!!』

「……っ~~!?」

私の足下で、地面が割れる。
407vVnRDWXUNzh3 :2018/10/23(火)23:23:20 ID:oWk
艦娘として授かった身体能力を、並み外れた反射神経を、そしてあの司令官の下で鍛えられた危機察知能力を。今この瞬間ほど感謝したことはない。

隆起した箇所から身体を捻り跳躍したのと、カーペットの如く捲れ上がるアスファルトの下から突き出された黒く図太い棒状の何かが脇腹をギリギリで掠めていったのは、ほぼ同時。
肌に艤装建造用のバーナーを押し当てられたような熱と伴われる激痛に顔を歪めながら、それでも正面敵艦の方へと空中で向き直る。

『オ゛ォ゛ッ!!』

「ちぃっ!!」

だが、その時には“標的”の方も奇襲による混乱から回復していた。両手の機銃を乱射しつつ、背後へ跳んで私から距離を取る。離脱運動の中で放たれた銃火の照準は滅茶苦茶で命中弾は一発もないが、図らずも制圧射撃となった弾幕に動きを縫い止められ却って追撃に移れない。

『オォッ!!』

『イァアッ!!!』

後ろで穴から這い出して全身を露わにした新手と、道路に四つの穴を穿ちながら前方20m程の位置に着地した元々の標的。
2つの“艦影”は────2隻の【雷巡チ級】は同時に咆哮し、わざとらしく大袈裟に金属音を鳴らして両手二挺の機銃を私に向ける。

「………畜生っ!!」

迷う暇も考えを巡らす隙もない。まんまとキルゾーンに誘い込まれる形となった事への悪態を口にしつつも、身体が反射的に次の動作へ移っていた。

『『オォオオオッ!!!!』』

全身の筋肉を余すことなく限界まで稼働させ、左へ跳ぶ。四挺の機銃が同時に放った弾丸の雨が靴底数センチ先の空間を掠めていく感触を知覚しつつ、腕をクロスさせてそのままブロック塀に激突する。

路地裏で寄生体から逃れたときの蹴りとは比べものにならない勢いを載せた、“艦娘渾身のタックル”の威力は絶大だ。殆ど抵抗感を感じることなくブロック塀をぶち抜き、更にその向こう側に建っていた一軒家の壁も貫通して私は頭から屋内へ転がり込む。

『ォアアアッ!!』

『キィアッ!!』

すぐに、チ級達も後を追ってきた。私が空けた大穴の両隣で新たに塀が2箇所崩落し、土煙の向こう側からヌウッと顔を覗かせたのは黒光りする銃口四つ。
放たれる弾雨が室内に降り注ぎ、床や壁を蜂の巣にし、家具や調度品を容赦なく吹き飛ばしていく。

「ちょっとは休ませてくれてもいいんじゃないかしら……!」

どこぞのクソ司令官に見習わせたくなるような敵艦の勤勉さに辟易しつつ、射線を躱して部屋の中央に鎮座していた巨大なテーブルの下にスライディングで潜り込む。
全長3、4メートルはありそうなそれの縁をひっつかみ、弾幕を遮らせる形で引き倒した。
408vVnRDWXUNzh3 :2018/10/23(火)23:28:39 ID:oWk
『ア゛ァ゛……ッ!!!』

「成金趣味様々ね!」

家主の羽振りがなかなか良かったのか、一般家庭の家具についてはド素人の私でも高価だと一目で解る大理石製の白テーブル。
いかにもセンスがありませんと自己主張しているようなやたら余分な装飾がくっつけられた造形はともかく、その厚みが奴らの弾幕をしっかりと遮ってくれている。

まぁ用途はまるで違うけれど、人類最大の敵の攻撃を受け止め美少女を護るという大役を果たせたのだからテーブルの作成主も持ち主も本望でしょう。

(……にしても、よりによって“重雷装巡洋艦”に地上で追い回されるなんて結構な屈辱だわ)

テーブルに背を預けてSIGの弾倉を入れ替えながら、その事に思い至り私の眉間に自ずと皺が刻まれた。

雷巡はその字面通り魚雷攻撃に特化した艦種であり、海上でこそその真価を発揮する。
通常の砲雷撃戦や地上戦も熟せなくはないが、酸素魚雷の単艦大量集中運用が可能という「本来の用途に基づいた火力」を考えると宝の持ち腐れと言わざるを得ない。

ウチの北上と大井は“海軍”の中でも更に別格の戦闘力を保有するが、それでもやはり、投入される作戦は専ら深海棲艦を相手とした海上戦闘だ。

そう、艦娘や深海棲艦のように“陸戦も平然と熟せる生きた戦闘艦”という存在になって尚、重雷装巡洋艦の在り方はあくまでも海の上に主眼が置かれている。

『『ア゛ア゛ァ゛ア゛ッ!!!』』

………少なくとも、腰から下を近未来系SFゲームに出てくる多脚戦車のようなユニットに取っ替えた上で地上を闊歩し両手に25mm3連装機銃を装備してぶっ放させるという運用法は想定されていないだろう。

「趣味だけなら、アイツ等の創造主はウチの司令官と合いそうだわ……」

中東のイスラーム過激派を中心に、一部の狂信的な宗教団体の中には深海棲艦を「神の使い」と崇めその侵略を甘んじて受けいれるべきと主張する組織が幾つか存在する。
彼ら曰く深海棲艦は人類に「終末」という名の救済を施す黙示録の使者であり、神の救済を妨害する私達艦娘は滅すべき穢れた存在になるらしい。

脳に寄生体が取り付いてるんじゃないかって疑いたくなるようなイカレた主張だが、仮にこいつ等を派遣した神とやらが実在するならギル=レモ=デルトロとマイケル=ベイは死後の世界で相当な特別待遇を受けることになりそうだ。

まぁ、そんな心の中に九歳児を飼っていそうな神様私は願い下げだけど。
409名無しさん@おーぷん :2018/10/24(水)21:56:49 ID:paq
おつです!
艦これSSのはずなのに白兵戦描写で筆ノリノリですね
410vVnRDWXUNzh3 :2018/10/30(火)23:26:29 ID:vVe
さて、どうしたものか。ようやく一息は入れられたが、残念なことにこの平穏も長くは続かなさそうだ。

『『ォアアアアッ!!!!』』

勤労意欲に満ちあふれるイカしたデザインの“神の使い”2隻による弾幕は、私が身を隠した後も一向に衰えない。
ものの数十秒で限界を迎えたらしい机が、背中越しにパキパキという乾いた音を立てて警告を発してくる。

「お盛んで結構!」

『ギィッ!!』

腕だけを出して、再装填したSIGを乱射する。敵の姿は見えないが、火線の方向から位置を割り出すぐらいはワケもない。掃射音の中に小さく甲高い船体殻への着弾音が混ざり、弾幕の勢いがほんの微かに揺るむ。

「ふっ!!」

空かさず身体を捻り、バリケードにしていた机に蹴り。
元々大理石という鉱石自体の硬度はさして高くない。加えて弾幕でズタボロという状態が艦娘の一撃に耐え得る筈もなく、砕け散った欠片が部屋中を飛び交い壁や天井に突き刺さる。

同時に舞い上がるのは、部屋の中に霧が立ちこめたのかと錯覚しそうになる大量の白い粉。

『………ッ!?』

大理石の主成分は炭酸カルシウム、言うなら巨大なチョークを粉砕したようなもの。奴らの弾幕を受け止め続けて全体に亀裂が広がり、予想以上に細かく砕けたことも幸いした。
唐突に視界を遮られ、狙い通り2隻の弾幕が完全に止まる。或いは煙幕に乗じての突貫を警戒したのかも知れないけれど、残念ながらこちらの目的はその反対。

私は床から飛び起きるや否や、家の反対側へ抜けるため───チ級達から逃れるため全速力で走り出す。
411vVnRDWXUNzh3 :2018/10/30(火)23:54:46 ID:vVe
『ア゛ァ゛!!!』

それほど長くごまかせるとは最初から思っていなかったが、チ級達の冷静さは私の期待値を残念な事に大いに上回る。ほんの十歩も行かぬうちに、めくら撃ちながら掃射が再開された。

柱や壁に無数の穴が穿たれ、家全体が軋んで悲鳴を上げる。対空機銃二挺分の火線による破壊と蹂躙の音を背中で聞きながら、私は寝室と思わしき部屋に飛び込み窓を蹴破って外へ。

(─────“二挺分”?


…………っ!!!」

『ジァッ!!』

寸前で、その事に気づけたのは僥倖だった。さもなければ、庭先に着地するや上空から迫ってきた“影”に咄嗟に反応できなかったかも知れない。

高校球児のヘッドスライディングみたいな不格好さで更に前へ跳ぶ。直後に後ろに着地した“何か”の姿を確認する間もなく、そいつが態勢を立て直す前にのたうつような動きで路地に転がり出る。

『ォ゛ッ!!!』

「いっつ!?」

間一髪。起き上がった私が走り出した直後、弾幕がアスファルトを削り土煙を上げる。何発かが足下を掠めたが、幸いなことに船体殻に反らされて移動に影響が出るようなダメージは負わずに済んだ。

……ただ。

「この感じ……最低小破はしてるわね……」
412名無しさん@おーぷん :2018/11/01(木)16:22:41 ID:pHZ
おつおつ!
413vVnRDWXUNzh3 :2018/11/03(土)23:31:08 ID:6dM
ここはゲームの世界じゃないから、私が受けたダメージが数値として可視化されたりするようなことはない。いつもなら船体殻の明滅具合や色で大まかな状態が視認できるけれど、今は殻が薄すぎてそれも難しい。

だが、こっちは陸海問わず幾十幾百の修羅場をくぐってきた「地獄の鎮守府の副艦」だ。ごく僅かな感覚の変化でも自分の状態ぐらいは把握できる。

(それにしても、ほんの四、五発ぐらいでこんなに削られるとはね…!)

元々生身も同然のつもりで戦っていたのは確かだが、それにしたって脆すぎる。
十発にも満たない機銃弾でここまで削られるなら、弾幕をまともに浴びればものの数秒で大破する。ましてや主砲撃なんて、12cm単装砲一発でも致命傷だろう。

改めて、正面から馬鹿正直に戦うわけにはいかないと認識させられる。
特に遮蔽物の少ない表通りでの戦闘なんて以ての外、かといって屋内に逃げ込んでも、ただの一般住宅ではさっき同様僅かに小休止の時間を稼ぐので精一杯だ。

『ギィッ───ガッ!?』

「邪魔だっての!!」

加えて、外での戦闘は相手がチ級だけじゃないという点も枷となる。

『オォッ!!』

「くぅっ!!」

マンホールのふたを撥ねのけて足下に飛びついてきた寄生体の頭を咄嗟に踏みつけ絶命させるが、回避に伴うほんの僅かな遅れをチ級達は見逃さない。

頭上からの射撃音。降り注ぐ弾幕を転がって躱し、電信柱の影に飛び込んで射線から身を隠す。

『ゼァッ!!!』

息を整える間もなく逃走を再開した私の後ろで、着地音。微かな地面の揺れに蹌踉めきながらも身体を捻り、振り向きざまにSPAS-12の引き金を引く。

「痛っ……!?」

『ギィッ……!!』

心持ち上に射角を取ったことが功を奏し、既に機銃を構えていたもう片方のチ級の顔面付近で弾丸が炸裂して火花を散らす。
今度は故意ではなく純粋にバランスを崩して背中から転んだ私の数センチ横を、ほんの僅かに狙いを外した火線が白い土煙を上げて駆け抜けた。
414vVnRDWXUNzh3 :2018/11/03(土)23:32:39 ID:6dM
『アァアッ!!』

「『「ォオオォオオオッ!!!!』」』

私の抵抗を見て、屋根の上にいた個体の方が機銃の先端を手でも振るみたいに私の方へ何度か突き出す。
まるで何かに指示を出しているような動きだと思った矢先に、鬨の声と共に通りの向こう側から寄生体も混じえた“暴徒”の新手が現れる。

「用意周到ねホントに!!」

『ィアッ!!』

「おごっ!?』

『ぐぅあ……っ」

残り十発を切った12ゲージ弾でもう一度チ級の視界を遮った後、駆け出しながらSIGに持ち替えて背中越しに銃弾を乱射。
何人かが呻き声と共に斃れる音を聞きながら、狙い通り“暴徒”全体に足並みの乱れと進軍の遅滞が発生したことを確認する。

とはいえ、出鼻はくじけたがもうそう長い時間逃げることは恐らくできない。弾薬もいよいよ枯渇し始めているし、暴徒や寄生体も絶対に背後から追ってくる分だけで終わりじゃない。
特に寄生体の場合、さっきのように下水道や排水溝、家屋からの襲撃も考えられる。コイツ等だけならそれでも裁けなくはないが、そこにチ級からの機銃掃射も加わるとなれば流石にいよいよ一人で捌ききれるかどうか自信がない。

(かといって……こいつらを、暴徒や寄生体だけでもダメなのにチ級まで学園に連れて行くワケにもいかないし……!)

「ねぁっ!?』

一度振り向いて銃撃。眉間に火薬臭い穴を穿たれてまた一人“暴徒”が斃れるが、後続はまだ何十何百といる。到底あと五つと少しの弾倉で処理できる数ではないだろう。

『『ォオオオッ!!!!』』

そして、撒くこともまた難しい。何せ向こうには、常に“上”から私の動きを注視できる眼が二対あるのだから。
415vVnRDWXUNzh3 :2018/11/03(土)23:35:14 ID:6dM
『オァッ、アァッ!アァアッ!!』

「……っ!はぁっ!!」

左斜め前、白い壁の一軒家の屋根に“着地”したチ級が、何事か叫びながら私の進路上に火線を放つ。回避不能と踏んだ私は咄嗟に身体を切り返し、塀と壁を突き破って向かい側の家の中へ。

この形で破壊したのは今日何軒目だろうか。あり得ないとは思うが、弁償を迫られたら司令官に全部ツケておこう。まぁ司令官はロマさんにツケ直すでしょうけど。

「死ねおるぁアアアあaゴペッ』

『ギッ、オゴォッ!?』

私が空けた穴を通って、追いついてきた暴徒の先鋒数名と寄生体が家の中に踏み込む。チャラ付いた服装の男の“暴徒”を心の臓に一突き入れて黙らせ、その手から金属バットをもぎ取り伸びてきた寄生体の口の中に突っ込む。

『ジョアッ』

『へぶっ!?」

バットをソイツの頭部ごとトイレのドアに叩きつけ、潰れた頭とへし折れたバットを纏めて投擲。ブーメランのように回転しながら飛んでいったそれは後続の女のブヨブヨと腹回りにまとわりついた贅肉に突き刺さってブロック塀に縫い止める。

「ひぁっ………あがっ────』

その光景を見て足を止めたサラリーマン風の若い男が、真上から降ってきた“何か”に踏み潰され地面に巨大な赤いシミを広げた。

『─────ァアッ!!!』

「~~~っ!!!」

此方を睨む25mm3連装機銃の黒光りする銃口を認識した瞬間、前ではなく横に動く足。襖を突き破って部屋に転がり込んだ直後、コンマ一秒前まで私の身体があった位置を弾丸が駆け抜けていく。

「ヴァォオオオォオッ!!!!』

寝室と思われるその部屋の押し入れから、殺される直前の食用豚のような声を上げて躍り出る異様に巨大な人影。咄嗟にSIGの引き金を三回引くと、“暴徒”と思われる人影はそのまま跳ね返るようにして再度押し入れの中に倒れ込んだ。
416vVnRDWXUNzh3 :2018/11/03(土)23:36:37 ID:6dM
「はぁっ、はぁっ………!!」

目が霞み、息が上がり、起き上がろうとする身体が震える。流石に精神的にも身体的にもぶっ続けで大きな負荷をかけ過ぎて、体力の限界が訪れつつある。

『ォオオォオ……ッ!』

だけど、いつまでも寝ているわけにも行かない。銃声に混じり廊下の方から聞こえてくるのは、金属製の鋭利な“何か”がフローリングの床を踏みしめているような「カチャン、カチャン」という音。それは少しずつ、だが確実に私がいるこの部屋に近づいてきていた。

「………っ……!」

倦怠感を押さえ込んで、肘で窓を破り這うようにして部屋の外に。停電しているのか街灯も付かず薄暗くなりつつある住宅街に転がり出た直後、道路を挟んだ対面の家の二階部分でズンッという音と共に土煙が上がる。

『─────オァアッ!』

「畜……生……!!」

煙の向こうに、さっきまで別の屋根の上にいたはずのもう片方のチ級が佇んでいる姿を見たとき、か細い呼吸の中から思わず悪態が口をついて零れた。

「とんだ休暇もあったものね、本当に……!!」
417vVnRDWXUNzh3 :2018/11/03(土)23:40:00 ID:6dM
もう絞りカスほどしか残っていない体力をかき集め、右へ走る。後ろから追ってくる銃火の熱を感じつつ、ブロック塀を飛び越えて隣家へ。

「っ」

跳躍の延長動作で勝手口の扉を破壊して屋内に飛び込み、床を転がって窓際の壁に背を寄せる。すぐに弾丸の雨が窓を貫き、つま先を掠めて10数センチ先の床に無数の穴を穿つ。

「……どんな性能よ、あの陸上ユニット!」

今の個体がどうやってあそこに現れたのかは簡単な話。屋根から屋根へと飛び移ったから。
問題はその距離で、私が直前に襲撃を受けた場所との位置関係から逆算するに直線距離でも確実に50M以上はあった筈だ。着地音が聞こえてきたのは一度だけ。

つまりたった一回の跳躍で、あの個体は50M前後の距離を0にしたということだ。

しかも地上から二階建て、三階建ての家屋にも軽々と到達していることから、垂直跳躍力も10Mは優に超える。

加えて魚雷こそつんでいないもののフル艤装で弾薬を満載したチ級が自由自在に跳び回り、ただの一般家屋がその着地の衝撃で潰れるようなこともない。重量制御の面でも────というか、恐らくあの脚部ユニットの存在それ自体がとてつもないオーバーテクノロジーの塊だ。

ウチの明石に見せたら、顔中からあらゆる液体を垂れ流してとても直視できない表情になりかねない。

(追いかけっこしても常に高所を取られてまともに撒けるわけがないわね……何か方法を考え─────)

ズンッ。

ついさっき聞いた物と全く同質の音。相応の重量がある“何か”が、それなりの高さから勢いよく着地する音。

『──────ギァッ!!!』

それがすぐ頭上から聞こえてきた物だと認識したときには、音の正体は天井を突き破り私の目の前まで落下してきていた。

左胸目掛けて刺突の形で繰り出される黒い棒状の何か。咄嗟に肘打ちではたき落としに掛かるけど、勢いを殺しきれない。

「──────っ、がっ……」

喉の奥から漏れる、なんとも無様な苦悶の声。

脇腹に、まるでよく熱された火箸にかき回されるかのような激痛が拡がっていく。
418名無しさん@おーぷん :2018/11/06(火)17:43:21 ID:RzU
しばらくチェックしてなかったら更新されてた
おつです
419vVnRDWXUNzh3 :2018/11/09(金)23:02:12 ID:BgI
視界が明滅し、奇妙な浮遊感が全身を包む。身体が壁を突き抜けて宙を舞い、脾腹から迸った血が夕闇に紅い弧を描く。

「…………っ、っ───」

空中でなんとか身を捩り、足先から地面に着地。だが最早そこから踏ん張るだけの余力はなく、膝からがくりと力が抜けて前のめりに崩れ落ちる。

無機質で冷え切ったアスファルトの感触を全身で味わう。なんとか立ち上がろうと身体中の神経に命令を送るが、感覚こそあるものの構成物質が鉛にでもなったみたいに殆どのパーツが微動だにしない。

(痛っ………!)

辛うじて動く右手で、脇腹の傷口に触れる。疼くような痛みが脳髄まで一気に駆け上がるが、幸い刺突を受けた直後の痛みの激しさに反して出血も少なく傷が内臓まで達した様子もない。
奴の刺突が本格的な白兵ユニットじゃなくてただの機銃で行われたことと、打たれた瞬間に咄嗟の判断で自分から床を蹴って後ろに跳んだことが致命傷の回避に繋がったようだ。

けれど、傷が深くなくとも、負ったダメージ自体が小さいわけじゃない。ただでさえ膂力差がある雷巡と駆逐艦、しかも装備の差もある上で船体殻が影響しない白兵戦闘。

多少直撃を反らしたぐらいで軽減できる損傷はたかが知れている。体感する限り極めて大破に近い中破になっているようだけど、その程度で済んだなら寧ろ幸運と言える。

『『キィッ、キィッ、キィッ!!』』

「居やがったぞ、艦娘だ!』

『弱ってるふりかも知れねぇ、油断するな!包囲を維持しろ!」

まぁ現状一番の問題は……その“幸運”を活かすことができそうにない点、よね。
420vVnRDWXUNzh3 :2018/11/09(金)23:07:25 ID:BgI
バタバタという足音が、或いはズルズルと地面を這いずる音が、奇声や叫び声を伴い幾つも重なって辺りを賑わせる。
道の両脇や今し方私が叩き出された民家から、寄生体と暴徒がぞろりと現れ私を取り巻き群れを成す。

『─────カァッ!!』

そしてその仕上げとばかりに、私の真横……それも1メートルと離れていない位置で重く低い着地音。腹の下で、微かに地面が震えるのを感じた。

(………本気でヤバいわね、これ)

絵に描いたような“絶体絶命”ぶりには最早笑いすら浮かべてしまいそうだ。身体を動かそうと全身に力を込めることはやめないながら、内心で密かに私は“覚悟”を決める。

『アァ……アァア……』

『ジ───ッ!ギッ、ギィ!!』

しかし、十秒待っても二十秒待っても、私が“覚悟”した事象は起こらない。

「………?」

『オアァ、イァ、アァア……』

『シィッ、ギッ、ギィギッ!!!』

銃弾を撃ち込まれることも機銃の銃身に打ち据えられることも寄生体に喉笛を噛み切られることもなく、頭上でチ級2隻の声だけがこだまする。訝しく思って、右腕に続いて徐々に機能を取り戻し始めた首を、少しだけ持ち上げ辺りを見回した。
421vVnRDWXUNzh3 :2018/11/09(金)23:08:15 ID:BgI
『ヒィッ、シッ、ィアアッ。ォアッ!!』

『アァ…イァ、ジッ……』

今し方飛び降りてきた個体と、私に民家で刺突を繰り出した個体。道路を挟んで2隻のチ級が向かい合っているが、2隻とも私を攻撃する素振りは一向に見せない。

いや、この表現は正しくないか。

『オァッ、ジャッ、ギィッ!!!』

私のすぐ傍に着地した方は、此方に25mm3連装機銃を向けて何度も突き出している。
仮面の下から垣間見える青い眼光の奥に宿るのは、一分一秒でも早く私を殺したいという強烈な憎悪。

『オァ、イッ、イィア………』

対してもう一方は、銃口を突きつけるどころか左手を機銃ユニットから完全に離し、何かを制するように掌をこっちに拡げていた。
声や動作もどこか弱々しく、いきり立つ片割れに明らかに困惑している。

『イ゛ッ!!』

『『キィ、キィ……』』

『うっ………」

この空間を取り巻く“群れ”も、未だ動かない。
時折此方に飛び出そうとする暴徒や寄生体の姿はちらほら見られるが、構えを解いた方のチ級が睨み据えるとその都度動きは止まった。

……裏とはいえ国際的な組織である“海軍”で必要に迫られたこともあって外国語にはある程度精通しているつもりだけど、残念ながら深海棲艦の言語は習得していない。
故に、奴らが何を“話し合って”いるのか、そのやり取りを直接読み解くことは不可能だ。

けれどこの状況や、奴らの細かな所作から大まかな内容は類推できる。

『オ、アッ、ギィイイッ!!!』

『アァ、イァ、アァア……』

間違いない。

コイツ等は今、“私の”処遇について対立し、言い争っている。
422vVnRDWXUNzh3 :2018/11/09(金)23:39:06 ID:BgI
さて、どういう風の吹き回しかしら。

私たち艦娘は、深海棲艦が殆どの場合において唯一“人間”より優先して駆逐しようとする不倶戴天の敵であり、「生かしておく」理由はない筈だ。

実際表・裏を問わず艦娘が奴らとの戦闘で轟沈した事例は数多く存在するが、例えば奴らが捕虜を取っているなんて話は噂や怪談レベルですら聞いたことがない。

『オォア、ギィイイッ!!!』

『アゥ、アァアア……』

けど現に奴らは………少なくともチ級の内一隻は、私を殺すことを躊躇している。
或いはこの場での実行を止めているだけでどこかに連れ去ってから改めて殺害するよう促しているかも知れないけど、それも結局わざわざそうする理由が見えてこない。

ただまぁ、一個だけはっきり言えることがある。













「っっ!!!」

『………ガッ!?』

一連の“言い争い”は、その内容がどうであれ奴らにとって余りにも致命的なタイムロスだった。
423名無しさん@おーぷん :2018/11/10(土)10:30:28 ID:XHv
いつも楽しみにしてるから頑張って!
424vVnRDWXUNzh3 :2018/11/14(水)23:05:45 ID:Vtv
右手を伸ばし、突き出されていた機銃の銃口を塞ぐようにして掴む。そのまま少しだけ引き寄せると、反射的に振り払おうとでもしたのか奴は掴まれた方の機銃を私ごと勢いよく持ち上げた。

それは、私が狙ったとおりの動き。

『ジァッ!!』

丁度チ級の頭上に差し掛かったところで右手を離す。落下先にあった頭に指をかけ、背後から首に腕を巻き付ける。
慌てた声を上げて暴れ出した奴の背に猿みたいに必死の思いでしがみつきながら、私はコートの内側からその“艤装”を取り出す。

電探出力増幅装置───フル装備の時は、兎の耳よろしく頭のすぐ上で浮いているアレ。
文字通り電探・水探の補助装置にあたり、ちょっと尖ってるから間違って踏むと痛いぐらいで本来は全く攻撃能力を持ち合わせていない。

ただし今私の手の中にあるのは、狂人が雁首揃える“海軍”技研印の特別製だ。

「いい加減……お黙り!!」

『ァゴァ……ッ!?』

『アァッ!!?』

首筋に装置を突きつけ、中心の赤いボタンを押す。次の瞬間、先端から黒い刃が勢いよく飛び出してチ級の喉笛を貫いた。

『コフッ、カヒッ────ヒッ!?』

カッターナイフの要領で内部にスライド式のブレイドを収納した、言うなれば“仕込み電探”。正規の白兵装備と比べるとかなり小振りだが、それでも伸びきった刃渡りは優に50cmを超える。

チ級の致命傷となるには、十分だ。

……まあわざわざ電探を仕込み武器にする意味は凡人、否、凡艦娘の私には皆目見当も付かないが、しっかり役に立ってしまった以上深くツッコむのは辞めておきましょう。
425vVnRDWXUNzh3 :2018/11/14(水)23:09:27 ID:Vtv
『ヒュアッ────』

数秒ほど藻掻いた末、空気が抜けるような間の抜けた呼吸音を残してチ級の身体が脱力する。
闇夜にもそうと解るほど青々とした血が傷口から果汁のように滴り落ち、主の絶命によって機能を停止した脚部ユニットが押し潰れる形で地に伏す。

『……ォア』

重量制御が利かなくなり、アスファルトに数百キロは確実にある巨躯が沈み込む震動と音。それが鳴り響いた瞬間、ようやく向かい側のもう一隻は目の前の現実を受け入れたらしい。

『ギッ、アッ、ォオオオオオオオッ!!!!!』

「っ…!」

慟哭とも、怒りの雄叫びとも区別が付かない声を上げてチ級が両手の艤装を再起動する。降り注ぐ銃火を、もう一隻の方の屍を盾にして咄嗟に防ぐ。

船体殻の庇護を失った生身部分が弾幕で瞬く間に削られ、肉片が辺りに散乱する。黒い装甲殻の表面で無数の火花が炸裂し、弾幕の圧が脚部ユニットをより深く地面に沈めていく。

「一応は僚艦だった奴の屍体なのにお構いなしね……!」

まぁ人間・艦娘と深海棲艦の間に価値観・倫理観の相違があることは今更検証するまでもない事実だけど、それにしてもいっそ清々しいほどの躊躇のなさだ。
仲間の轟沈自体には怒りを感じることはあっても、その遺品や遺体に敬意や感傷を抱く文化は少なくとも持ち合わせていないらしい。

しかし、相変わらずど派手なばらまきぶりだ。一連の追いかけっこで彼方も結構な弾薬を消費したはずなのだが、張られる弾幕には衰えが一向に見られない。どころか、今回の射撃は僚艦喪失の怒りもあってか最も激しいように思える。

(あの脚部ユニットに予備弾薬でも収納されてるのかしら)

ともあれ、こうも熱心に攻撃されると動けやしない。さっきに比べると大分回復したとはいえ、未だ身体は自由が利かないパーツの方が多い。

20m有るか無いかというこの程度の距離ですら、今の私では0にする前に弾幕に捕捉されて蜂の巣だろう。

そして、

『シァアッ!!!』

『「『ウォオオオオオッ!!!!!」』」

このまま隠れて回復を待つという最も現実的な選択肢を選ばせてくれるほど、甘い敵でもない。
426vVnRDWXUNzh3 :2018/11/14(水)23:13:23 ID:Vtv
鳴り止む気配がない銃声の中に混じった、何かの号令と思わしきチ級の咆哮。それが響いた途端、私たちの両側で右往左往していた“群れ”が俄に統率を取り戻す。

寄生体も暴徒も足並みを揃え、口々に雄叫びを上げながらの総突撃。容赦なく放たれる弾雨がそれらも諸共に薙ぎ倒すけど、怯む様子も足並みが乱れる気配もない。

それでも、物量という点では難なく捌けていた今までとそう変わらない。……問題は、捌く側である私のコンディションが最低最悪な事だ。

「こ、のっ!」

SPAS-12はさっき襲撃を受けた際に紛失している。SIGとブレイドで両側から押し寄せる“群れ”を迎撃するが、火力も手数も体力も足りない。

瞬く間に、距離を詰められる。

『シャアッ!!!────ッア゛』

「ぐぅっ!?」

斬撃をかいくぐった寄生体の噛みつきを、後ろに蹌踉めきながら辛うじて躱す。牙が右腕を抉る痛みに耐えて口内にSIGを撃ち込み沈黙させたが、足の踏ん張りが利かない。

『ぞらぁっ───ぐぼっ」

「ォゴァアアアアアアアッ!!!!』

「きゃあっ!?」

転倒しかけた身体を塀に寄りかかって咄嗟に支えながら突進してきた刺股持ちの暴徒を蹴り飛ばすが、すぐ後ろから飛びかかった後続の巨漢に対し反応が遅れた。

ラリアットのような形で胸元に全体重を乗せた殴打を食らい、地面に押し倒され強かに背を打ちつける。
427vVnRDWXUNzh3 :2018/11/15(木)00:12:26 ID:nrX
「ビァッ、ボァアアアアッ!!!』

「……っ、退きなさいっての!!」

「パァオッ』

私に馬乗りになりながら水膨れのようにブヨブヨと肥大した身体を震わせて形容しがたい声を上げるソイツの首に、手刀を撃ち込む。
空けた穴にSIGをねじ込んで三度銃声を響かせると、頭頂部から鉛弾と脳漿を鯨の潮吹きよろしく噴出させ絶命した巨体がゆっくりと仰向けに倒れた。

『らぁあああああっ!!!」

「殺せ、殺せぇええええ!!!!』

起き上がる間すら与えて貰えない。すぐさま他の暴徒達が倒れた私の周囲に群がり、得物を四方八方から突き出してくる。
私はそれらを転がって避け、SIGの弾倉が空になるまで引き金を引き、ブレイドで片端から斬り払う。

が、もうそれらの抵抗は彼我の物量差や状況を鑑みればただの悪足掻きだ。
十秒とかからず飽和状態が訪れ、ブレイドによる防御を数人がかりで弾かれ致命的な隙が生まれる。

「死ねヤァアッ!!!!』

賺さず、“その筋”の人間を思わせる服装の男が私の心臓目掛けて匕首のような物を突き出す。

「─────ッ、かっ………!?』

だが刃が私に届く直前、一発の銃弾が男の側頭部に風穴を空けた。

『────ォアッ!?』

何が起きたのか理解する前に、更に風切り音が頭上を駆け抜ける。ドンッ、と低い炸裂音がその後に続き、呻き声と共にチ級の機銃掃射が停止。


#´_ゝ`)「姉は強いキィーーーーーーーック!!!」

『ごべらっ!!!?」

そして次の瞬間、上から降ってきた人影の蹴りが近くで惚けていた暴徒の内一人の頭蓋骨を粉砕した。
428名無しさん@おーぷん :2018/11/15(木)09:31:45 ID:HYn
要救助者確保!
おつです
429名無しさん@おーぷん :2018/11/16(金)00:31:37 ID:T64
おつ

新着レスの表示 | ここまで読んだ

名前: mail:





エンド・オブ・オオアライのようです
CRITEO